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はじめに―「保険医療現物給付」と「医療予防給付」の結びつけは何故必要か―
前号で説明したように,わが国の医療関係保険法は,その歴史的な制定のいきさつもあるのであるが,保険技術を採用していること,そして「医療現物給付方式」を採用していることと結びついているのか,とりわけ財源問題に結びついているのか,また上記の原則にこだわっている厚生省の考え方からなのかわからないが,「予防給付」を現在の医療保険法の中の給付対象とすることにはきわめて消極的である。このことは,疾病の早期発見,早期治療のいわれている今日の時代の流れとはそぐわないことも事実となっている。
そうはいっても,社会保障制度が先行し,充実しているといわれる西欧諸国でも,ひとつの制度で医療給付(医療現物もしくは医療費償還払,予防給付,リハビリテーションその他のサーヴィス給付)をすべて包括的にひとつの制度でまかなう制度もあれば,別々の制度でおのおのの機能を分類するものもあり,とりわけ後者の場合には機能的な結びつきが大切なこというまでもない。この点,わが国の制度は,後者に属する。たとえば,母子保護をとると,母子の医療(出産は医療給付対象ではない)は医療保険,母子の保健サーヴィス—予防的なものとして考えた場合—は母子保健法とか,児童福祉法,その他予防法というように別々となっている。このことは,勤労者保護でも同じといってよい。勤労者の疾病,負傷は医療保険,労災は労災保険。しかし健康予防的なものは労働基準法の「健康検査」か組合運営保険の「附加給付」に委ね—このように解してもとりわけ後者の「予防給付」は形だけのものとなっている—さらに労働安全・衛生の対策は労働基準法に委ねているようなことと一致している。
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