研究
腹帯の効用とその疑義
松山 栄吉
1
,
藤沢 俊子
2
1東京厚生年金病院産婦人科・東京大学
2東京厚生年金病院産婦人科
pp.40-48
発行日 1968年9月1日
Published Date 1968/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611203620
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はじめに
産科領域において,わが国で古くから広く用いられている「腹帯」ほど,迷信と学問的根拠とが混乱しているものもないと思われる.最近の著しい医学全般の発展によって,産科学の医療内容もめざましく進歩しているにもかかわらず,ほとんどの妊婦がこの旧態依然たる腹帯を着けることによって,子宮を保護し,胎児の発育が順調に保たれ,安産に導くことができると過信していること,しかもこれがわが国だけにしか存在しないということも奇妙な現象である.実際に臨床面に従事している産婦人科医や助産婦の中にも,腹帯の学問的意義にいろいろ疑問を持ちながらも,ただわが国のむかしからの習慣ということで,そのまま着用させているものも多いと思われる.
著者のうちの松山は数年前の東大産婦人科在局時代にこの点に疑問を持ち,母親学級における腹帯の指導内容を変え,それほど学問的に根拠のないことを妊婦に理解させるよう指導すべきだと主張し,医局の若い年代の医師も同意見のものが多かったにもかかわらず,これにもっとも抵抗したのは意外にも助産婦であった.その理由のひとつには,民族にはそれぞれの習慣があり,その気候風土に合ったものが発達してきたのであるから,その必然性も考えなくてはならないということであったが,最近の文化社会の向上に伴なって,生活内容も必然的に合理化されなければならないであろう.すなわち,東京では数年前までは多数見られた妊婦の和服姿も,現在ではほとんど姿を消し,合理的な洋装の妊婦服姿に変わってしまった.しかし,外見が変わっても,中身はむかしのままの腹帯を巻きつけているということは,服装のバランスからいっても,まことに陳腐といわざるをえない.
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