特集 精神身体医学(産科)
産褥と精神身体医学
長谷川 直義
1
1東北大学医学部
pp.23-25
発行日 1966年12月1日
Published Date 1966/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611203309
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I.はじめに
子供を産むまでは病気ひとつしたことのなかった女性が,産後に頭痛・眩暈・ノボセ感・しびれ感・肩凝り・冷え性……などのいわゆる更年期婦人によくみられるような身体症状に苦しみ,子供の世話も家事もできなくなってしまっているのをよくみかけるものである.古来,巷間では産後におこるような病気を「血の道」「チカタ」あるいは「血が荒れる」「血がさわぐ」などと呼んで怖れてもいた.それというのもこの病気はとくにこれといって他覚的な所見もないのに,これに罹ったものの中には一生愁訴に苦しみ,寝たっきりのものさえ現われるからである.したがって「血の道ですか」というコトバの裏には「治らず,どうすることもできない病気」というあきらめの意味がかくされている.しかし研究を進めてゆくと,従来「血の道」と呼ばれていた婦人の疾患は原因的には更年期障害と同一であり,かつ更年期や産褥期だけでなく,あらゆる年令層の婦人に発症することが解明され,今日では婦人の自律神経(失調)症という疾患名で整理されるようになった.そしてさらに難治で一生寝たっきりのようなものは,実はホルモンの変動によって自律神経が失調して起こるタイプのものではなく,なにか解決困難な感情的問題や深刻な精神葛藤が原因で,心因性におこった「血の道」(=心因性自律神経症)であることが解明されたのである.
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