特集 精神身体医学(産科)
妊娠と精神身体医学
岩渕 庄之助
1
1慶大医学部
pp.16-19
発行日 1966年12月1日
Published Date 1966/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611203306
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はじめに
母性への序曲である妊娠の生物学的過程はその生理的変化と同時に心理的,社会的絆の中に複雑な相関関係をめぐらして,女性をしてその性のもっとも輝しき本質と考えられる母性という人類生命の灯を,暗黒の太古より未来永却へと絶えることなく無限に続く種の奉仕者たらしめる,身体的精神的負担を背おわされた聖なる事業であろう.この生命の創造なる聖なる事業は身体的には性器を中心として,分泌系をはじめ全肉体が新しき生命体の発育と保護に参加する内部環境の変化と,精神的(心理的)には母親となるべき人がこの世に生まれて以来両親をはじめとする対人関係や生活環境,生活経験を通じて得られた性格や人生観を土台として性のパートナーたる夫との愛の果実を胎内に宿すことにより,目覚めた新しい母性的感情との調和が妊婦個人としてばかりでなく,妻という家庭生活,社会生活の場において求められる事業であろう.
ここにおいて身体と精神の調和こそ妊娠なる母性の出発点に立って近い将来の分娩,哺育,育児などの一連の生物学的母性過程における種の保存という原始的本能をして母性愛へと昇華せしめるものである.それゆえに身体精神の統合体としての妊婦の診察に生理的過程としての身体と同時に,母性としての一転機に際し動揺しやすい精神的心理的状態にまで明徹な配慮,すなわち精神身体医学的考察が望まれる.
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