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緑陰
遠
pp.9
発行日 1960年7月1日
Published Date 1960/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201937
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楚々として舞えるが如くであつた柿若葉が窓いつぱいに緑をたたえて日ましにその濃さが目にうるさくさえ感じられる.日本的な物の感じとり方の表現には使いなれた言葉の流用でありながら誠によくはまつた言い方があるが,さしずめ盛夏にむかつての夏木立のたくましい成長ぶりは,茶人などに言わせれば「さわがしいものかもしれない.それでも,日ざしのつよい午さがりといい,西日まぶしい夕ぐれ時といい深いかげをつくる老樹のたたずまいは好ましくも嬉しくもあつて,まずは御厄介になりがちである.
街路樹も風情はともかく,バスや電車を待つ間に嬉しい日かげをつくつてくれるし,地方へ出かけても,延々とつづく畔道や田畑の中の路に木立のない時など,照つても降つても余りありがたくないもの.外出がちの,しかも時と所とを選ばない仕事であるだけに,助産婦には酷暑の季節は何かとからだにこたえもするだろうと察せられる.せめては緑陰に一息入れるくらいの天の配剤,自然のサービスもあつてほしいものである.もつとも,お忙しい向きにはそれどころではなかろうけれど.
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