提言 PROPOSAL
クスリの効いた薬剤原稿を
遠
pp.375
発行日 1963年5月10日
Published Date 1963/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409202806
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良い原稿が欲しいとは,編集者と名のつく誰しもが願うことだが,私どものように医学という専門化した学術論文を扱う編集者が,原稿の良し悪しを評価する資格を本来的に欠いている点は蔽うべくもない弱点である。それを補う意味からも私どもの注意はいつも医学の趨勢と学界でのトップテーマ,新研究の動向,境界領域の微妙な推移交流などへ向うし,筆者の業績が水準を越したものである限り,それだけの目を充分に光らせ巧みに寄稿を喚起し,依頼を発しておればかなり高度に「編集能力」を集中し得る訳である。専門誌編集が,専門家の叱正鞭撻を蒙りながら非専門家の手て往々その使命を果しているのは,このような死角を援護する編集姿勢が用意されてあるからかもしれない。原稿自体の良し悪しではなく,学問と研究の流れを大きな物尺として選別し高挙してゆくというはたらきは,必ずしも商業ベースというにとどまらない,私ども編集者の当然の努めとなる。
綜説,研究,診断,治療などの原稿にまじつて薬剤原稿は医誌では相当の比重を占あているが,現在では特定薬剤の臨床使用経験を報告するものが圧倒的であり,製薬会社と臨床家の間の関係に就て何らの忖度を加えるではなく,中に私どもでさえも首を傾げたいような原稿も舞いこんでくることを指摘しておきたい。僅か数例のケース,粗雑な考按,貧弱な文献渉猟など,これで薬の効く効かぬを報告されては読者も迷惑と,私どもは先ず読者のことを老える。
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