社会の動向
明治の響き「日本唱歌集」
長谷川 泉
1
1医学書院編集部
pp.46-47
発行日 1959年6月1日
Published Date 1959/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201701
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岩波文庫で出た「日本唱歌集」(堀内敬三・井上武士編)がベスト・セラーになつている.元来文庫というものは,すでに単行本で出たものなどの二番せんじで安価であり,地道に長期間にわたつて読者を期待するところに特色があるのだが,発行後短期間に爆発的な売れ行きを示すというのは珍しいことである.
だいたい岩波文庫は古典ものを重視する編集方針を堅持していた.この文庫の発刊の辞は,岩波茂雄の署名で記されている有名な「真理は万人に愛されることを求め…」の大上段の宣言である.新潮文庫や角川文庫や河出文庫などが,玉石混淆で現代ものを表面におしたてて華やかに打つて出たのに対して,過去の文化遺産の手堅い覆刻や普及という仕事は,大いに意味はあるにしても,おしまくられる傾向があつた.岩波文庫が近代古典をかなり採りあげるようになつたのは,それに対抗する意味があつたであろう.明治のものが最近はずい分加えられた.なにしろ,各大学に近代文学の講座がおかれ,国文学の卒業論文の多きは半数に及ぶ近代領域の論文が出る現状では,たしかに読者の関心もそのようなところにあり,それにこたえることが必要だということになろう.
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