連載 ほんとの出会い・44
時を超え 場所を超え 共鳴する音の響き
岡田 真紀
pp.978
発行日 2009年11月15日
Published Date 2009/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688101479
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「戦場のメリークリスマス」の音楽で知られている坂本龍一さんがテレビ番組で爆笑問題の太田光さんと田中裕二さんと対談していた。田中さんが生まれて最初に好きになった曲として,「天使の誘惑」(黛ジュン)をかけた。それを聴いていた坂本さんは,「僕にはわからないなあ」とシャイな表情で言うが,単なる率直な感想であって,下に見る態度はない。この人の音楽への姿勢が感じられた一シーンだった。
「世界の坂本」さんと私は,実は大学の同期で,しかも同じ授業に出席していた,らしい。というのも,学生のときには全く彼のことを知らなかったから。ところが,卒業後20年もたってからお世話になった。それは,私が大学時代の恩師,民族音楽学者の小泉文夫先生の伝記を書いたときのこと。坂本さんが小泉先生の講義を聴いていたことを何かで読み,不遜にも坂本さんに本の帯を書いていただくことを思いついたのだ。といっても,個人的には何のつながりもないし,坂本さんに原稿料をお支払いするゆとりは私にも出版社にもない。そこで,本の前書きとあとがきを事務所にお送りし,帯を書いていただきたい気持ちを縷々つづった手紙を書いた。すると,簡潔ながら想いの込もった素晴らしい原稿が届いたのだった。「小泉文夫はぼくの音楽に対する態度に決定的に影響を与えた人です。……小泉文夫の授業に参加し,個人的にも知り合えたことはぼくの人生の誇りであり忘れられない思い出です」と。
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