今月の言葉
"迷想"
水谷 佐
1
1哺育病院
pp.9
発行日 1959年6月1日
Published Date 1959/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201692
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東大の小林隆教授が「"Wir müssen in der Geburtshilfe viel wissen, um wenig Zu tun."——我我は産科学に於て出来る限り多くの知識や経験を積まねばならない.それは余計な手出しを避け.介助最少限度に止める為に」という先賢の言葉を引用して産科学診療上の立場を明らかにして居られるが,以て範とすべき基本的態度といわねばならない.
骨盤位に対する外廻転については,時に胎盤早期剥離,早期破水,臍帯巻絡,児の外傷等の危険が伴い,多くの非難が存するが,初妊婦の場合比較的無理なく成功するならば児の死亡率を減じ,時には帝王切開の如き余分な介助を省略し得る点,更に妊婦の不安を除いてやる点でも効果は大きい.私は骨盤位の外廻転を進んで行つている.時期的には30週前後に綿密頻回の診察,X線診断の汎用により誤診を防ぎ,骨盤位と確定するや胎児下向部が骨盤内に嵌入して外廻転上無理が伴うと思われるものには数日間胸膝位を励行させ,嵌入下向部が浮動するに及んで外廻転を行つている.それでも尚下向部の浮上が不充分な場合には内診して下向部骨盤を静かに押し上げ乍ら2人がかりで双合廻転を行つている.この場合でも児心音には細心の注意をし,術後止血剤,EPホルモン,阿片剤等を投与し,安静を保たしめ,頻回の診察を行つて経過を観察している.斯様にして骨盤位の大部分を頭位変換に成功して居り,不幸な結果を招いた例はない.
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