社会の動向
猪突だけが能ではない
長谷川 泉
1
1医学書院編集部
pp.38-39
発行日 1959年4月1日
Published Date 1959/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201664
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今年は猪の年です.「広辞苑」によつて「猪」の項を見てみますと次のようにあいきようのある説明があります.「偶蹄目.いのしし科の獣.体は肥満し,頸は短く,眼が小さく,体長約1メートル背面に黒褐色の剛毛があり,背筋の毛は長く,怒ればこれを逆立てる.腹面は暗白色,犬歯は口外に突出,上方に向かつて曲る.山中樹木の繁茂する所に棲息,夜間,田野に出て食を求め,冬は穴居.豚の原種」大体この猪の年であるとか,あるいはねずみの年であるとかいうのは,十干十二支から出ている考え方であります.十干十二支は「えと」ともいい,干即ち兄,支即ち弟の意味であります.十干を木火土金水の5行に当てはめ,陽をあらわすところの干,陰をあらわす支を組み合わせて呼んだものであります.現在では暦の上で十干とか十二支というようなことは全然言われなくなつて,まれに古い人がそういうことにこだわつているようでありますが,新しい人たちの間ではそういうような考え方は一掃されてしまったわけです.僅に残っているとすれば結婚の時などにまだそういう古い形骸,昔のしきたりなどにこだわることが地域によつてはあるくらいですが,最近ではそういうようなことも問題にしないようになつて参りました.
猪というのは「猪武者」であるとか,あるいは「猪突猛進」等と使われるように,大体気勢が鋭くて,長つづきはしない典型のようにいわれています.猪を原種として変性した豚ほどのあいきようもありません.
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