映画紹介
旅路
外輪 哲也
pp.37
発行日 1959年4月1日
Published Date 1959/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201663
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イギリス海峡に臨む海岸町の古ぼけた小さなホテル「ボーリガード」——この映画は,ほとんどこの小さなホテルの中のことを描いたもので,かつての名作「グランド・ホテル」に非常によく似通つている.
ここに集つているのは,孤独な魂の持主ばかりである.人生に傷ついて,酷薄な性格を身につけた暗い男のアメリカ人マルカム.その彼に献身的な愛情を捧げるのが,長い間孤独な生活を続け,切れ者で気立てはよいが,取り澄したところのあるホテルの経営者クーパー嬢.一方,冷酷な母親にいじめられ,おどおどするばかりで,母の言いつけをうのみにするシビルと,深い憂愁に沈んでいるボロック少佐.シビルの母親は,年の違う少佐と娘がつきあうのを極度にきらい,内気な娘を威している.或る日,この陰気なホテルにひどく派手な客が現われた.アンである.アンは,自分に結びつく男を奴隷にせずに置かない性格の持主で,かつてマルカムの妻であつたが,彼を苦しめて行政官としての輝しい将来を振らしている.その後,幾度か結婚し,男を征服したが,今は年老いてから,一人で暮す不安におののいている.ここで二つの事.件が起つた.その一つは,シビルの母親が,少佐の軍歴学歴は真つ赤な嘘で,シネマで婦女子にいたずらをして留置所に入れられたことがあることを,週刊紙をつきつけて暴露したことと,他の一つは,マルカムがアンと大喧嘩をしてホテルを飛び出したことである.
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