講座
産科における出血死について
古谷 博
1
1自衛隊中央病院産婦人科
pp.13-17
発行日 1959年4月1日
Published Date 1959/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201655
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はしがき
この世に生をうけたばかりの子供を残して死んで行く母親,胎児とともにこの世を去つて行く妊婦の死亡は単に本人の大きな不幸であるばかりでなく,残された家族にとつてはこの上もない悲劇であり,家庭生活の中軸である主婦を失うことであるから,更に社会的な特殊な意義をももつているものであるとも言えよう.
したがつてあらゆる文明国にあつて,この悲惨な死亡を出来るだけ防止し,少くしようとして早くから深い関心と努力とが払われていて,最近では次第にその成果をあげつつある様である.ひるがえつて,わが国の状態を省みてみると,種々の統計が示しているように,残念ながらわが国ではまだまだ改善の実があがらず,諸外国にみられているようなよい成績ではない.わが国においては戦後における世相の変化,人工流産の著しい増加,それに加えて欧米の国々に比べて人命尊重の精神が依然として低いままであり,又「お産は生理的なもの」とした様な極めて軽卒な取扱い方等,われわれ産科を職とし,母子衛生にたずさわるものとして,この際真剣に考えてみなければならない問題が非常に多い.
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