特集 産婦人科医のための臨床薬理・1
貧血と出血傾向のための薬物
古谷 博
1
Hiroshi Furuya
1
1東京大学分院産婦人科
pp.607-611
発行日 1966年8月10日
Published Date 1966/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409203526
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はじめに
産婦人科の実地臨床において,出血という症状は日常あまりにもありふれているといつてよい。したがつて特に性器出血をおこす病因なり機序に関する知識は一般的によく知られているし,また大出血に対する処置についても身についているが,その背景というか,考えようによつては本質的な問題ともいえる出血の機構,止血機序,ひいては血液凝固機転などについては,問題が複雑で実地臨床の根拠となるほどの理解がなかなかもちにくいのが現状である。これはあたかもホルモンの複雑なメカニズムまでは理解できない程度にありながら,いわば押ボタン式の安易さでホルモン療法を行なつているのと同様で出血に対していろいろな止血剤をその特有な作用機序を十分に理解しないで使つているような場合が多いのではなかろうかと反省させられる。
また一方では,わが国の婦人には一般に貧血者が多い上に,産婦人科疾患には出血,感染,腫瘍など貧血をおこしたり,これを進行させやすいものが多いことが重なつて,患者の大半は貧血になつているといつてもよいだろう。医師も患者も貧血にはむしろ悪い意味でなれてしまつているともいえる。手術を必要とする患者には術前に輸血して貧血を回復させておけばよいという考え方は,手術それ自身の安全性などの見地からは一応よいであろうが,その貧血状態をきたした根本原因に対する治療としてはとかく不十分になり勝ちなことが多い。
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