特集 助産の変遷
終戦までの助産婦教育
佐久間 兼信
pp.8-14
発行日 1956年7月1日
Published Date 1956/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201081
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助産婦教育のはじまる以前
助産婦という職業は他の多くの婦人職業とちがい,報酬を求めようとすることからはじまつたものでなく,人類愛,くだいていえば他人に対する同情の気持に発したものといえましょう.原始時代のお産は思いのほか簡単に行われたかも知れないが,人間の場合,犬やネコのように軽々とすまず,いかに原始人でもお産のなやみはあつただろう.こんなとき同族の婦人が世話をしたことは想像できる.その手伝が度々重なればその仕事になれてくるし,ついには名指しで頼まれるようになる.そして世話をしてもらつた方は純真な感謝の心で自分の獲た青果鳥魚の類を贈つた.おいおいと依頼する人も多くなり金子を贈るようになり,ついに受けた金子で生活する,助産婦という職業が出来あがつた.
多くの婦人職業のうち例えば衣類の仕立屋さんなどは,或る裁縫学校の校長さんの話によると,戦国時代に武家の貧しい生活を助けるため夫人が内職として始めたのがついに独立した職業になつたということだが,助産婦という職業は生活のためから始まつたのでなく人を助けることから起つたもので,一般の職業とはその成り立ちが全くちがうということを,この職業につく人の心に特にきざんで欲しい.医とともに助産婦もまた「仁術」である.
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