講座
明日の母子衞生の問題
瀬木 三雄
1
1東北大学
pp.10-16
発行日 1955年10月1日
Published Date 1955/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611200927
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最近私はある県庁の衛生部長を訪ねて懇談した.この部長は本年メキシコで開催されたW.H.O(世界保健機構)の会合に出席し,各国を訪問し帰国したばかりである.この部長は,その各国巡廻の総括的印象として,多くの国では住宅問題と,母子衛生問題に特に力こぶを入れているという話であつた.勿論,私はこの結論には同感であり,多くの国に於て,この両者に公衆衛生上の主力が注がれている事は疑う余地はない.しかし,私の意見としてはもう少し付け加えたいことがある.それは,これらの問題のうち母子衛生の方は,外国に於て最近に発展した事柄ではなく,ずつと昔から公衆衛生上の最重要の問題の一つとして取り上げられ来つたものであり,問題の性質上,永続性を有するが故に,現時に於ても大きく取り上げられているものであるということを強調したい.
社会の推移,医学の発展に応じて公衆衛生上の諸問題の在り場所とその比重も変つてくるのは当然である.この解決を早めた例は甚だ多い.例えば,かつて人類の大敵であつた痘瘡は種痘の発見によつてその脅威が絶滅した.19世紀の後半から今世紀のはじめにかけて黄金時代を示した免疫学の発達は破傷風,ジフテリア,その他さまざまの伝染病の脅威を人類から駆逐することを可能にした.今世紀の前半における化学療法の進歩,殊にサルフア剤と抗性物質の発見は更に広汎な各種の伝染性疾患が吾々に与える不幸を激減した.
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