助産婦の美術館
斑鳩の里—(中宮寺・2)
金子 良運
1
1国立博物館
pp.60-61
発行日 1954年5月1日
Published Date 1954/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611200609
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中宮寺にはさきの弥勒菩薩像のほかに,「天壽国曼護羅」と呼ばれている珍らしい一張の繍帳も保存されています.現在この繍帳はガラスの板に狹まれた2尺6寸強と2尺8寸強の,しかも断片を雜然と寄せ集めたものにすぎませんが,原図の大きさは1丈6尺或は2丈と伝えられ,聖徳太子の薨後に御妃たちが太子の淨土に往生された有様を偲び,菩提を弔らわんと造られたものなのです.
綾や平絹などを下地に用い,それに墨で下図を画き丹念に色糸でぬいとりしたもので,佛像,人物,鬼形鳳凰,月,瑞雲,蓮華,植物,宮殿形建物,鐘楼など何かの物語のある場面らしい各種の構図が,赤白,青,黄,樺,紫と色々の色素で綴られています.何分にも1300年の星霜を閲しているために既に糸の色あせ破損も著しいとはいいながら,尚,そぞろに昔の華麗な面影を彷彿とさせています.
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