紙上美術展
三月堂—東大寺(4)
金子 良運
1
1国立博物館
pp.37
発行日 1953年8月1日
Published Date 1953/8/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611200413
- 有料閲覧
- 文献概要
特に前號にも記したようにこれら三月堂の諸像は,決して5分や10分の短かい時間で慌てて観て廻るべきではありません.1時間でも2時間でも,或は1日でも腰を落着けてゆつくりとそして靜かに相対しているべきです.きつと心はいつかうつしよの濁りを離れ,千年の昔の夢にさまよい,立ならぶ一つ一つの像がおりなす豊かさと峻嚴さとの素晴しい階調に,思わずわれを忘れるに違いありません.
堂の暗さに目がなれてくると,まず須弥壇の中央に一段と高く不空羂索観音の像が拜せられます.見上げる巨像の三眼八臂の異樣な姿でさえ,それが破邪の日指しであり,大悲の羂索を執つて衆生を救い諸願を成就せしむる菩薩の形と知れば,少しの不自然さも感じる事はないでしよう.
Copyright © 1953, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.