紙上美術展
三月堂の諸像—東大寺(5)
金子 良運
1
1国立博物館
pp.40
発行日 1953年9月1日
Published Date 1953/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611200436
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本尊の不空羂索観音の像をはさんで日光月光の2菩薩と,さらにその外側には梵天帝釈天の二躯が安置されています.ちよつと見ますと日光月光の像は大変小さくほつそりと感じられますが,実際の高さは6尺8寸強もあつて,人間なんかよりはるかに大きくどうどうとしたものなのです.きつとまわりがあまり大き過ぎるためにそんなふうにみえるのでしよう.向つて右の袈裟を着ている方が日光菩薩です.柔和な相好,ゆつたりと着衣に包まれた豊麗な姿,或は脳前で合掌する両手の美しさなど,あたかも堂内にみちている緊迫感をソツとときほぐしてくれろ一服の凉味にも似た存在です.
あくまでも靜かに,そして嚴しいのが梵帝釈の2像です.じつと見下す叡智の眼指しと,壓迫をさえ感じるような丈六の巨像の量感は,気安く人々がそこに近づくことを許しません.しかし又そんな反面茫洋として握みどころもない大さが,躇らいつつもなお去り難い親しさとしてあれわれを引きつけているのではないでしようか.白つぽい埃の下から衣の美しい彩色がほのかに浮出て見えるのは嬉しい事です.そして日光月光,梵天帝釈の4像はすべて前に書いた塑造という技法で造られています.
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