Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
コナン・ドイルの『〈グロリア・スコット〉号の悲劇』—19世紀英国の脳卒中患者
高橋 正雄
1
1筑波大学
pp.1250
発行日 2023年11月10日
Published Date 2023/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552202982
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1893年に発表された『回想のシャーロック・ホームズ』(深町眞理子訳,東京創元社)に収められている『〈グロリア・スコット〉号の悲劇』は,学生時代のホームズが唯一の友人だったトレヴァーの家を訪ねるという話である.トレヴァーの父親は「かなりの資産家で,治安判事ならびに大地主として,地元で重きをなす人物」だった.彼は「見るからにがっちりとして,たくましい体つき」をしていたが,「地元では親切で情けぶかい地主として通っていて,治安判事としても,罪人に寛大な判決をくだすことで知られている」,村の名士だったのである.
ところがこの父親は,肘の内側にある入れ墨についてホームズが戯れに彼の過去に関する推理をすると,「妙な,物狂おしげな目つき」でホームズを凝視していたかと思うと,「いきなり前のめりになって,テーブルクロスに散らばった胡桃の殻の上に,顔から先にばったり倒れこんでしまった」.
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