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「読み書き」とその障害とは
読み書き障害など,学習面の苦手さを表す用語,関連する症候群は,読み書き困難,読み書き障害,学習障害,限局性学習症,ディスレクシア,ディスグラフィアと多岐にわたる.学習面のつまずきの多くがこの「読み書きの困難さ」によるとされており,このような学習面のつまずきが注目されるきかっけが2002年ならびに2012年の文部科学省調査「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」1)であり,担任教諭に対する質問紙調査に基づく4.5%の学習面につまずきを見せる児童の存在による.それ以前にも学習障害という用語は存在していたが,対象はまったく異なり,現在の定義の学習障害に該当する児童・生徒は長い間,本人の「学習不振」として捉えられてきた経緯がある.ただ,この数字もいわば学習面の躓きとして教員が学校教育の場面の中で「認知された数字」であり,環境要因に起因し一過性の学習遅延と考えられたものや,他の行動要因が前景に立ち学習面の課題が認知されなかったもの(ボーダーラインの知的発達を含む)は含まれていない可能性がある.医学診断名である限局性学習症(specific learning disorders:SLD)のうち,あくまで読みの障害を主訴とするディスレクシアの出現率でさえ1〜2%2)から7%程度3)の報告まで幅広い現状を踏まえると,教育の学習障害や医学の限局性学習症の診断基準に該当するかは別として,結果として学習面に課題を抱える児童・生徒は全体の1割を超えるといっても過言ではない.一般的にディスレクシアはDiagnostic & Statistical Manual of Mental Disorders, 5th ed(DSM-5)におけるSLDの定義の中で,読解の入り口に相当するデコーディングの問題,読み困難に伴う(結果としての)読解の問題を指しており,広く読解で捉えるとデコーディング以降の読みの心的プロセスにはディスレクシア以外のさまざまな発達障害特性が直接かつ間接的に関与することも想像に難くない(図1).すなわち読み書きスキルに直接,間接的に影響を及ぼす障害やその要因は限局性学習症の多くを占めるディスレクシアをはじめ多岐にわたることを想定した評価・支援の枠組みを準備する必要がある.
昨今,海外の研究においても一定の認知特性とその傾向を見せるディスレクシア以外で読みの困難さをもつ児童を「非特異的な読み遅延(non-specific reading delay:NSRD)」と扱っており4),ディスレクシアでなければ読み障害ではないというのは大きな誤解である.よって,本稿では限局性学習症の多くを占めるディスレクシアの評価と支援を念頭に置きつつも,必ずしもそこに限定せずディスレクシアとNSRDを中核とする読み書き障害について教育・医療双方の観点に発達的視点を加えて論じることとする.
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