ナースの作文
長男の誕生,他
加部 八重子
1
1前橋赤十字病院
pp.72-75
発行日 1959年10月15日
Published Date 1959/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661910951
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
学生の頃の産科の実習以来8年,殆んど産科の勤務の経験のない私が,自分の妊娠の徴候を知り母となる喜びを胸に,身体の変化を本と照し合せながら待つていた出産の日は,私にとつて非常に長いものであつた。妊娠4ヵ月迄は流産予防の為に運動には常に気を配り,胎動がはじまれば,それを感じとる腹部の位置から胎児の位置異常か奇型ではないかと心配し,妊娠末期に下腹部に緊張感を覚えれば陣痛の開始かと,ことごとに期待と不安とのあけくれであつた。それなのに予定日を10日以上過ぎても分娩開始の徴はなく,医師に相談したが,予定日以後15日以上になると胎盤が老化現象を起すので,それ迄待つて生れなかつたら兎も角,なるべく自然分娩の方が良いというので再び落ちつかない幾日かを送つた。
漸く予定日を過ぎた18日目の11月24日に分娩開始の徴をみて,時をきつて下腹部にしぼられる様な痛みが起つてきたときは,痛みの辛さよりもほつとした気持の方が強かつた。それも束の間,入院して一昼夜の陣痛にも胎児はあまり下降せず,子宮底は34cm,児心音は166という危険状態になつてきた。そうなると発作の度毎に,もしも胎児が窒息したらと,自分の方が苦しくなる様な気持で涙さえ出てくるのであつた。そうして遂に帝王切開に決定したのはその日のお昼頃だつた。家への連絡はなかなかとれず.
Copyright © 1959, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.