Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
高橋新吉の『かぐつち』—妄想の両価性
高橋 正雄
1
1筑波大学人間系
pp.76
発行日 2017年1月10日
Published Date 2017/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552200832
- 有料閲覧
- 文献概要
ダダイスト詩人として知られる高橋新吉(1901-1987)が昭和23年に発表した『かぐつち』(高橋新吉全集Ⅱ,青土社)には,主人公が「俺が昂奮していて,精神が異状を呈していた時であった」と語るごとく,新吉自身を思わせる主人公が,被害妄想や関係妄想に支配されていた時の言動が描かれている.
たとえば,栃木県の益子町近郊に住む友人Kを訪ねた主人公は,Kの家にあった位牌に短刀を振り下ろして真二つに割るという奇矯な行動に出て,周囲を驚かす.この時の彼は,「この位牌は私の精神状態を試験する為に,虚偽の位牌を作って,わざとならべている」と思い込み,その場で彼の挙動を見ていたKの友人のことも,「予め私の来るのを知らされて,その備えの為に食卓について待っていた警察の人間」ではないかと疑ったのである.
Copyright © 2017, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.