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認知関連行動アセスメント(CBA)は高次脳機能障害における言語や視空間認知のような巣症状(本書では個別的認知能力)ではなく,全般的な精神機能を評価する尺度である.本書はこのCBAを医療機関の多職種に導入するためのテキストである.高次脳機能の知識,CBAの背景理論,CBAでは取り上げていない個別的認知能力の解説,評価尺度使用の実際,障害内容別・発症からの経過時期別の成績,各職種の視点及び事例を中心とした実際のデータの解説からなっており,著者の経験を生かし丁寧に解説されている.大脳の広範な領域の機能障害は症候学的には急性期の意識障害,亜急性期の通過症候群,慢性期の認知症が挙げられる.それぞれに評価尺度が作られているが,今回の尺度の特徴はリハビリテーションの立場から回復の水準を知り,生活障害との関連を予測することを目的としている点である.内容を見ると意識,感情,注意,記憶,判断,病識の6項目である.このうち意識,感情,注意及び記憶の前半4項目が基盤的認知能力,判断および病識の後半2項目が統合的認知能力とされる.
症候を記載するための臨床的なチェックリストであればこれらの領域について数十項目が必要であろうが,本アセスメントは医療関係の多職種の間で共有するためのツールであり,わかりやすさが追求されている.臨床症状は本来,質的評価であるのに,それぞれの機能水準を得点化し,さらに各領域の得点を合計し,総合得点により重症度を表示することに臨床家は違和感を覚えるかもしれない.高次脳機能障害とは病巣の分布によって異なった症状を独立に示すからである.この点について本書では一次元尺度化の根拠としてニューヨーク大学医療センターラスク研究所の神経心理ピラミッドと山鳥の情・知・意の階層を取り上げている.ラスク研究所は歴代先進的な認知リハビリテーションを展開してきた.CBAも最初の意識から最後の病識に向かってこれらの文献と整合性のある項目配列になっている.したがって項目得点の覚醒,感情は相対的に高得点がとりやすく,後の項目はとりにくく,総合得点は回復の総合的指標の意義を持ちうるのである.著者の病院ではこの尺度を職種間連携のために用いているということだが,医師,OT,ST,臨床心理士以外の看護師,介護士やMSWがとらえている情報がコンパクトな形で提示されることは,チームにとって有用であるし,対象者の総合的理解に通じるであろう.実際の事例の経過データも示され,リハビリテーション訓練以外に看護師による病棟ADL訓練の成果が強調されている.この点は従来の評価法にはない有用性である.
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