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「起きて,座って,立って,歩く」こうした基本動作の(再)獲得を援助するリハビリテーション専門職が理学療法士である.周知のとおり,理学療法士はPhysio-Therapistとよばれるように,身体あるいは身体運動のスペシャリストである.ゆえに,理学療法士は対象者の病態を捉えるために,身体運動学を用いてアセスメントを行う.しかし,関節の可動性や筋力が十分であるにもかかわらず,強い運動麻痺がないにもかかわらず,歩行自立に至らないケースや,何度も練習しているにもかかわらず,学習が定着しないケースが存在することを多くの理学療法士は知っている.その際,自立に至らなかった理由を「注意機能が…」「学習能力が…」と個人的な問題を列挙し,自分たちの介入に問題がなかったかのように振る舞う理学療法士がいることを評者は知っている.動きを運動水準のみで観察してしまうと,それら問題を解決に導くことができない.行動水準で動きを観察する視点をもつ必要がある.その際,役立つのが本書のタイトルでもある「認知能力のアセスメントとアプローチ」である.
本書は言語聴覚士である森田秋子先生と理学療法士の後藤伸介先生がタッグを組まれ,「理学療法士が知っておきたい」と修飾されたうえで書かれている.第1章は「理学療法士はなぜ認知能力を理解する必要があるか」と挑戦的な章となっているが,冒頭の問題を払拭するように記述されている.第2章は「理学療法士が知っておくべき認知能力の理解」と題して,認知関連行動アセスメント(CBA)に至るまでの神経心理・認知モデルについて極めて平易に書かれている.認知モデルの解説は難解になることが多く,それが要因となって,学習の機会を奪ってしまうことがある.批判を承知のうえ,あえて簡略化することで,まずは認知に関連する事柄を「理学療法士に知ってもらいたい」という著者の強い思いを感じとることができる.第3章には事例,第4章には地域領域を配置しているが,第4章が本書の特色ではないかと思う.地域になれば,関節運動学を基盤としたアセスメントのみでは通用しないことを,地域にかかわる理学療法士は痛感しているはずである.地域で働く理学療法士にとって,本書はまさに「かゆいところに手が届く」情報だと確信している.今後は改訂を重ねていただき,情報の一貫性にこだわっていただきたいと思っている.
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