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はじめに
脳損傷後の日常生活や就労などで壁に突き当たる原因の多くが,遂行機能の問題である.日常生活や社会生活において,何らかの問題に遭遇した際,それを解決していくためには,① 解決のための目標を設定する→② 目標を達成するための計画を立てる→③ 効率的な行動をする→④ 計画を実行する,の4つの段階が必要である.①② には論理的な思考力,③④ には実行力(行動力)が必要であり,思考力と実行力の制御には前頭葉背外側の働きが関与する.
1996年,Wilsonらは,知能指数(intelligence quotient;IQ),注意検査,記憶検査では判別されにくい計画性や常識的推測など,その患者独自の問題をみつけるために,遂行機能症候群の行動評価としてBehavioural Assessment of the Dysexecutive Syndrome(BADS)を開発した.2003年,鹿島の監訳により日本版1)が刊行された.
Lezak2)は,遂行機能の定義を ① 目標の設定:動機づけや意図,② 計画の立案:目標を行うための段階と考え,それらの評価および選択を行い,行動の枠組みを決定する能力,③ 計画の実行:一連の行動に含まれるそれぞれの行為を,順序よく,まとまった形で開始し,維持し,転換し,中止する能力,④ 効果的な実行:目標を意識し,自分の行為がどの程度の目標に近づいているかを評価する能力とした.さらに①〜④ を円滑に行うためには,周囲の環境刺激や状況を正しく認識する能力,発動性,注意の持続が必要となり,人が社会的,自立的,創造的な活動を行うために重要な機能であるとした.遂行機能障害とは,特に前頭葉損傷例に出現する行動障害に位置づけられ,日常生活が巧みに送れない不適応行動と定義される.
筆者ら3)は,遂行機能障害への認知リハビリテーションを試み復学に至った前頭葉損傷例では,神経心理学的検査では健常域にあっても,適宜に必要な認知を調整し適切な行動(目的志向的行動)がうまくいかない,という症例を報告している.
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