Sweet Spot 映画に見るリハビリテーション
「くちびるに歌を」—自閉症者の遅延反響言語に意味を与える着眼に心打たれる
二通 諭
1
1札幌学院大学人文学部人間科学科
pp.679
発行日 2015年7月10日
Published Date 2015/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552200307
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「くちびるに歌を」(監督/三木孝浩)は長崎県五島列島の中学校合唱部の話である.前宣伝から予想される物語は,都会から流れてきた一寸ワケアリな教師(新垣結衣)と島の生徒が,一定の困難を乗り越えて願いを成就するというもの.そうだとすれば,そこに目新しさはないが,本作は良い意味で筆者の予想を裏切る.初めは周縁部にいた自閉症青年のアキオが,ラストに至って中心部に大きくせり出し,全体を救う役割を果たすという構成は大向こうを唸らせるだろう.
アキオは合唱部員サトルの兄.アキオの言語パターンはおおむね遅延反響言語である.たとえば,勤務終了時であれば,自ら「アキオ君,お疲れさまでした」と発し,風呂に入るときは,「8時になったらお風呂に入るんだよー」と言いながら風呂場に向かう.日々の遊びはピーナツやドロップを自分なりの秩序で並べること.帽子が風で飛ばされると身体が固まる.いつもどおり事が進まないとパニックを起こすこともある.
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