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腎機能障害者における運動の役割
高血圧1),糖尿病2),心不全3),腎障害4-7)などの慢性疾患を有する者においては骨格筋に量的,質的低下が起こっており,筋力や運動耐容能の低下を招き,生活の質(quality of life;QOL)を低下させる一因となっている.その背景には,蛋白摂取量の制限や透析による蛋白喪失に加え,慢性炎症,代謝性アシドーシスなどの腎不全の病態に関連した要因,糖尿病を有する患者ではインスリン抵抗性,インスリン欠乏などの要因も複雑に絡み合った結果,蛋白異化亢進状態が惹起されることが指摘されている8).このような骨格筋などの体構成蛋白の減少と血清蛋白成分の減少を伴う栄養障害はProtein-Energy-Wasting(PEW)と呼ばれ,慢性腎不全(chronic obstructive pulmonary disease;CKD)患者の予後規定因子として重要視されている9).一方,骨格筋は皮膚や肝臓と同様に高い再生能力を有しており,骨格筋の形態や機能は適切な運動刺激によって適応しうるトレーナビリティを有していることが知られている.したがって,腎機能障害者に対して,骨格筋の量的・質的改善を図るような運動トレーニングの実施によって,体力の維持向上やQOLの改善をもたらすことに繋がると期待される.しかしながら,急性の運動時には,腎血流量や糸球体濾過量が減少することから,腎機能障害者が運動を行うと腎機能障害が増悪する危険性も指摘されている10).そのため,腎機能障害を増悪させずに骨格筋機能を増強させる至摘な運動強度や頻度を設定する必要性があるが,いかなる運動がよい影響を及ぼすかについての検討はまだ少ない11).
慢性腎不全の治療においては,血圧のコントロールやレニン-アンジオテンシン系(Renin-Angiotensin System;RAS)抑制の重要性が指摘されており12),降圧薬のアンジオテンシンⅡタイプ1受容体拮抗薬(angiotensin receptor blocker;ARB)は,慢性腎不全患者において,降圧効果および腎保護作用を有することが報告されている13).一方,カルシウム拮抗薬(calcium channel blockers;CCBs)にも腎保護作用の報告があり,両薬剤は腎機能障害を伴う高血圧治療において汎用されている14,15).骨格筋の再生,修復に関しても,アンジオテンシンⅡが関与していることが動物レベルで報告されており16),アンジオテンシンⅡタイプ1(angiotensin type1;AT1)受容体を介したその作用は,心不全や慢性腎不全に伴う筋力低下や骨格筋の萎縮を促進している可能性が示唆されている17).これらの背景から,実際の腎機能障害者を想定した,長期的運動の腎臓および骨格筋に対する影響を検討するうえで,運動と上記の降圧薬を併用した場合の影響についても調べることは,腎臓リハビリテーションの有効性を考えるうえで重要な意義があるといえる.
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