Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
クライストの手紙—18世紀末ドイツの精神科病院
高橋 正雄
1
1筑波大学人間系
pp.1198
発行日 2014年12月10日
Published Date 2014/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552200088
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ドイツ・ロマン派の劇作家クライスト(1777-1811)が,1800年9月13日に書いた手紙(佐藤恵三訳,『クライスト全集別巻』沖積舎)には,ドイツの精神科病院に関する記述がある.当時ヴュルツブルグに滞在していたクライストは,これまでに修道士が作り出した最も優れた施設として当地のユーリウス療養院を挙げるのだが,16世紀に領主司教ユーリウスによって寄進されたというこの病院は,本館だけでも城館のような構えで,建物の正面には63個もの窓が並んでいた.
中庭には大きな噴水があり,裏手にも植物園や浴場施設が設けられていたこの病院は,「全体が心温まる人間愛の極致のような産物」で,「どんな患者も,無一文の場合はこの施設に無条件,かつ無償で収容される権利」が与えられていた.回復した人や気力を取り戻した人は退院しなければならないが,回復の見込みのない人や老齢の人は,食事も着衣も終生受けることができたし,プロテスタントだろうとユダヤ人だろうと,不運に見舞われた者は誰でもこのカトリックの施設の恩恵を受けることができた.
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