鏡下咡語
中鼻道の風景—19世紀末
飯沼 壽孝
1
1埼玉医科大学耳鼻咽喉科学教室
pp.784-787
発行日 1996年9月20日
Published Date 1996/9/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1411901425
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世紀末を迎えようとしているが,前世紀末はどのような風景であったかを,中鼻道の解剖を通して描いて見たい。中鼻甲介を取り除いて中鼻道を現すと節骨胞と鈎状突起,その間の半月裂孔,半月裂孔が深まって生ずる篩骨漏斗の影,が見える。見えるというよりは,このように見るようにしつけられてきたのである。何の予備知識あるいは偏向した見方なしに中鼻道を見れば,篩骨胞を篩骨胞とは呼ばず,半月裂孔も半月ではなく三日月であると感ずるであろう。この断章の意とする所は中鼻道の現在の風景,あるいは風景の見方が前世紀末にどのようにして形成されたかを手短に紹介することである。解剖学書は一般に無味乾燥な記載であると受けとられるが,一方では見えるものの見方を示す記載でもある。
時代によって名付け方にも好みがあるので,現代の名称から始めたい。篩骨胞はBulla ethmoidalis,篩骨胞と鈎状突起(Processus uncinatus)が囲む裂け目が半月裂孔Hiatus semilunaris,そして半月裂孔の深まりが篩骨漏斗,Infundibulum ethmoidale (いずれもP.N.A.パリ国際解剖学名)である。いい換えれば,半月裂孔は2次元,篩骨漏斗は3次元の構造である。
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