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リハビリテーション科医の役割をあらためて振り返ってみます.チームリーダーとしてゴールへ向けて質の高い治療が提供されるよう舵取りをすること,医師として機能障害,能力低下などの問題点を的確に把握し,治療方針を決定すること,そして治療方針を患者,家族へ説明することが挙げられます.これらのリハビリテーション科医の役割については多くのところに書かれていますが,最後の「説明」の方法や重要性を教えてくれる機会はなかったように思います.リハビリテーション科医になった時,仕事の半分以上は説明にあると言われたことを今でも覚えていますが,説明に使う時間と労力を考えると,まさにその通りだと実感しています.説明にうまい,下手があっていいと思っており,下手な部類に入ると自覚しているので,説明をさらりとこなしている人がうらやましい.正直に言いますと苦手な仕事です.患者,家族の立場になって考えてみればできるなどという簡単なものではありません.難しいですが,リハビリテーション科医に求められる技術です.
いわゆるインフォームド・コンセントのための説明とは違う感覚で話をすることになります.それはからだに生じた障害のことだけを説明すればいいわけではなく,患者,家族のこれからの生活,言い換えると人生に直結する話になるからでしょうか.今後に待ち構える長い人生のことを1回30分,長くても1時間,入院中の数回,説明することになります.これまでさまざまな説明の場面に遭遇しました.そこに座っているだけで一言も発せず,相づちを打つことも表情を変えることもしない長男のお嫁さん,どこまで治るのか知りたいとストレートに聞いてくる患者さん,初めてのことなのでとにかくおまかせしますと繰り返す家族.60歳台の患者さんに,患者と同じ脳卒中を患った90歳台のご両親が付き添って来たこともありました.今の高齢化社会,家族構成の変化した時代を映し出していました.説明を終えて,何を質問すればいいのかわからないと言われると,下手な説明のせいかと落ち込みます.苦手な仕事ですから,説明前には頭の中でシナリオを作り,シナリオ通りの反応があり,無難に終えることができた時にはほっとする一方で,どこまで患者,家族の思いに寄り添うことができたかと考えることになります.医者からの話だからと聞いてくれて,理解したという反応をしてもらえたとしても,それだけの関係では,患者や,患者との場所と時間を長く共有してきた家族との距離は遠いままです.もっと話がしたかったと,患者さんから言われたことが忘れられません.
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