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はじめに
グルコースやアミノ酸など生体の維持に必須な有機物質の多くは水親和性である.細胞はこれら水溶性有機物質を脂質二重膜で構成される生体膜を効率的に通過させるための膜輸送装置,すなわちトランスポーターをもっている.トランスポーターは全身に存在しているが,特に脳神経系や腎臓・肝臓などの消化器系に多く発現している.このトランスポーターが関連する疾患・病態は,いわゆる生活習慣病など50歳以降の高齢化疾患関連遺伝子の約10%と報告されおり1),生活習慣病の治療薬開発の標的分子とも考えられる.臨床的にトランスポーターが関連する病態として,抗癌剤の薬剤耐性の獲得には薬物排出トランスポーターが関与し,また抗生剤の薬剤耐性にも細胞内から細胞外への薬物排出トランスポーターが関与している.生活習慣病関連では,インスリン刺激によりグルコース取り込みを促進するのはグルコーストランスポーター(glucose transporter;GLUT)であり,インスリンの投与により小胞が細胞膜下から細胞膜に融合し糖の取り込みを促進する.インスリンを除くと可逆的に細胞膜から小胞が形成され,それに輸送体は取り込まれて細胞内に帰る.この一連のダイナミックなプロセスにより血中濃度が調節されている.筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis;ALS)は,脊髄前角と大脳皮質運動野の運動ニューロンの脱落を特徴とする進行性の神経変性疾患であるが,その病因に対する仮説の1つにグルタミン酸トランスポーターの障害が挙げられている.グルタミン酸トランスポーターは,グルタミン酸を細胞内に取り込むことによって細胞外のグルタミン酸濃度を低値に保ち,神経細胞をグルタミン酸の興奮から保護する役割を果たしている.そのためグルタミン酸トランスポーターの機能障害により局所のグルタミン酸濃度が上昇して神経細胞死が生じると考えられている.銅代謝の先天性遺伝子異常として肝臓に過剰な銅が蓄積するWilson病は体内に銅が異常蓄積する代表疾患であるが,銅を運搬する蛋白質をコードする遺伝子の異常が原因と考えられている.このように臨床的にも身近な疾患や病態でトランスポーターは関与している.このなかでもモノアミントランスポーターは抗うつ薬の作用点であり,リハビリテーション領域では脳卒中後うつやアパシーに関わりがあるといえる.特にノルエピネフリンとセロトニンは気分障害に大きく影響しており,それぞれのトランスポーターは抗うつ薬の作用点である.ここではリハビリテーションと関連が深いモノアミントランスポーターに焦点を当て,その薬理学的特性や薬物療法について述べる.
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