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はじめに
IT革命と言われてかなり経つように思えるが,IT革命を支えているインターネットの起源は米国防総省が始めた分散型コンピューターネットワークの研究プロジェクトである.1986年にその技術を基に学術機関を結ぶネットワークが構築された.これが1990年代中頃から次第に商用利用されるようになり,つながるコンピューターは爆発的に増えて,現在のインターネットになっている.ヤフーが1994年にサイトの検索サービスを開始し,1995年,オンライン書店としてアマゾンが立ち上がり,Windows95が発表され,コンピューターが身近な物になった頃がインターネットの勃興期だと思われるが,まだほんの10年も経っていない.
革命と言われているものの,ITがもたらした変化を実感していない人はまだまだ多い.しかし,グローバリゼーションの流れを作り出したのは,紛れもなくITである.もっとも,現在のデフレ不況もIT革命のあおりで日本独自のルールが立ちゆかなくなったことが一因であると考えると,全ての日本人がIT革命の波をかぶっているとも言える.
ITとはInformation Technologyの略であり,それ自身は情報技術という意味である.その意味では文字の発明,印刷技術の発明,郵便制度の確立,電話や無線の発明もIT革命と言えるが,現在のIT革命は単なる技術革新にとどまらない点で革命と表現されうると考える.コンピューターや携帯端末といったデジタル技術の進歩とインターネットなどの情報技術の進歩に伴い,グローバリゼーションの流れのなかで,経済活動が空間的,時間的制約を超えて効率化すること,そのなかで新しい産業,文化が興っていることはまさしく革命と言うに値する変化である.
一方,医療は福祉政策の一部として存在している実状があり,各国の事情が優先され,グローバリゼーションはまだまだ及んでいない.医薬品の開発や審査など,グローバリゼーションが進みつつある分野もあるものの,特に日本では国民皆保険のもと,本格的な競争はまだ行われておらず,情報に対する欲求もそれほど強いとは思えない.
しかし,情報化の波は確実に押し寄せており,患者さんの側の情報入手が容易になったことより,医師と患者間の情報格差が崩れ,医師というだけでは説得力を持たない状況が生じつつある.もう少し進めば,患者さんが入手した情報に基づき医師,病院を選択する時代が来ると思われる.
また,聖域なき構造改革の御旗のもと,先進国に比して決して高額とは言えない日本の医療費の削減が声高に叫ばれ,なおいっそうの経営効率の向上が医療機関に求められている.総合規制改革会議でも医療費のコスト削減の切り札として,IT化があげられ,2001年12月26日に厚生労働省から「保健医療分野の情報化にむけてのグランドデザイン」が示された.
さらに,医学の分野でゲノム解析が驚異的な速度で進み,その解析のために,これまでとは異なる遺伝統計学といったコンピューター技術が要求されている.コンピューターとは無縁と思われていた生命科学の進歩がITで結びつき,バイオインフォマティックスと言われる研究領域が確立されている.また,medlineに代表される,インターネットでの情報検索はメタアナリシスといった新たな研究手法を生み出すなど,医学の分野からもIT化の要求が医療の現場に入ってくるものと思われる.図書館に行かずに文献検索が手軽にできたり,紙では持って歩けないような量の情報をノートパソコンで携帯したり,外来から参照することも可能になっており,日常の診療や研究の手法も変わりつつある.
まだまだ遅れていると言われながらも,IT化の波がひしひしと迫っている医療・医学の現場におけるIT革命の状況について,これまでの概略,現在試行されている取り組み,近い将来に予想されるIT化に厚生労働省の筋書きも踏まえつつ概説したい.
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