Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- サイト内被引用 Cited by
はじめに
脳卒中は患者本人ならびに社会にとって多大な経済的損失をもたらす1,2),脳卒中後の経済的損失は医療費のような直接的損失と休業により生産労働に従事できないための間接的損失がある.わが国での詳細なデータがないため米国のデータを紹介するが,1990年に米国で発生した初回脳卒中患者の生涯経費は一人当たり約10万ドルと見積もられており,そのうちの58%が長期の休業・休職により稼働所得を失う間接的損失である.特に,働き盛りの中高年労働者においては,経済的損失のうち間接的損失の占める割合がより大きい.
Niemiら3)は,65歳以下の発症時有職の脳卒中患者で職業復帰(あるいは職場復帰,以下,復職)できなかった46名すべてが,4年後のQOLの低下を認めたと報告している.脳卒中後の復職は上述した経済的側面だけでなく,個人レベルでの生き甲斐にも関わっており,社会復帰の一形態として重要な意義を有している.
しかし,脳卒中後の復職の状況と問題点についてはあまり顧みられていない.その理由として,脳卒中による障害の程度が幅広く,脳卒中後の復職の実態が把握しにくい,事例の個別性が高く一般化しにくい,また,対象となる脳卒中集団が定年退職年齢に近づいているために,復職という目標が彼らの多くにとって現実味を帯びなくなっている点などが指摘されている4,5).それにもかかわらず復職できる,あるいは実際に復職した多数の脳卒中患者群が見いだされている(表1,2).
脳卒中後の復職は,障害の程度や回復の度合いだけでなく,医学的な適正配置とも関連が深い.各々の作業は特有の身体的ならびに知的能力を必要とし,作業の種類によって身体的あるいは知的能力の必要度は異なる.そのため,脳卒中後の障害労働者と作業の要求度をマッチさせる必要があり,当該作業で必要とする能力以外に,神経系のどの部分が障害されているのか,換言すれば,残存機能についての評価が重要になってくる.
本論文は脳卒中後の復職に関する問題点,特にその医学的側面に言及し考察を加えた.まず,脳卒中後の復職に関する文献を詳述し,次に,脳卒中後の復職に関する予測要因について職場適応の観点から述べた.
Copyright © 2000, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.