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はじめに
脳損傷後に見られる高次脳機能障害のなかで,半側無視の発現頻度は失語に次いで最も頻度が高いと言われているが,その発現頻度は検出方法に大きく影響されるものではある.右半球損傷後のそれについてHalligan1)らは,Dillerら(1981),Girottiら(1983)およびVallarら(1986)が何らかの抹消テストを用いて研究した結果を引用し,40~44%の範囲内であると述べている.また石神ら2)は,同発現頻度に関して過去の報告に大きなばらつきがあることを具体例をもって示し,考えられる原因として検査・評価方法の違い,対象患者の発症後経過期間の違い,対象患者の質や量の違いを挙げている.いずれにせよ半側無視はかなりの頻度をもって発症し,リハビリテーションに多大な影響を与える症状だということができる.
半側無視の日常生活に及ぼす影響については,Denesら3)が患者の発症後6か月間に見られる日常生活活動の改善の程度に半側空間無視の有無が影響していることを指摘している.前島ら4)は,右半球に脳出血を認めた26例に関して,入院時に半側無視を呈さなかった例,入院時には半側無視を呈したが退院時までに消失した例,退院時まで半側無視が残存した例を比較し,3群の退院時の日常生活活動能力に有意差があることを明らかにした.また重野ら5)は,左半球障害72例および右半球障害45例について,日常生活活動における介助の程度が異なる3群間では,半側視空間無視の合併率に有意差があることを見いだした.
脳卒中後遺症患者の一般的介護の問題に関しては,東郷ら6)の報告がある.彼らは,自力で移動できない重症患者の在宅ケアについて訪問調査で介護の実態を調べ,二次的合併症のなかで褥瘡に注意を払う例が少ないこと,廃用症候群に対して関心をもっ介護者がなかったことを述べている.また,介護者支援の利用が少ないことを指摘し,その理由として患者を外出させることの面倒さや施設利用への不安があることを述べている.
この度われわれは,半側無視という症状が患者およびその介護者の生活に具体的にどのような影響を及ぼしているかを明らかにしたいと考えた.このため調査対象には,明らかな麻痺と痴呆を伴わない半側無視患者とその主介護者を選んだ.また,これらの患者が有している社会福祉的需要も明らかにしたいと考えた.本調査研究の目的は,1)半側空間無視患者とその介護者が生活上抱えている問題とその対処法とを具体的に明らかにすること,2)現行の障害者福祉制度がこれらの問題の解決にどの程度利用されているかを明らかにすること,3)ここから,在宅の半側無視患者に必要な社会支援制度のありかたを検討することにある.
なお半側無視は,左側無視例においてより頻繁に,より顕著に現れる1,2)ため,本研究では対象を左側無視事例に限定した.また本稿において「事例」とは,対象患者と主介護者の1組を指している.
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