1．痴呆症状

Dementia.

はじめに

　痴呆症状は，日常診療のなかでよくみる高齢者のありふれた状態である．しかし，その症状の判断については一般に使われている基準は曖昧であると言える．世界的に広く使用されている統一した基準があるにもかかわらず，わが国では広く認められ汎用されるには至っていない．このため痴呆症状の判断に的確性を欠き，混乱が生じていると言える．本論では，DSM-Ⅳ（Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders，4th ed）の診断基準に従って，痴呆症状について，また痴呆のある人の精神状態について述べる．

　また，痴呆症状はアルツハイマー病など脳の器質的疾患によってのみ決まるのではなく，身体状態，精神状態，生活環境状態も症状に関与することについても触れる．