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はじめに
読書の困難はロービジョンにおける代表的な障害(disability)であり,学習や就労・生活の質(QOL)のすべての領域に重要な影響を及ぼす問題である.アメリカ合衆国でロービジョンを,適切な眼鏡による矯正をもってしても,新聞を視覚的に読むのに支障がある状態1)と定義しているのもこの事実を反映している.ロービジョンの読書困難を引き起こしている原因は視力の低下だけにとどまらず,未知の部分も少なくない.特に最近増加している加齢性黄斑変性症(Age-related Macular Degeneration;AMD)などの疾患による中心視野欠損は,顕著な読書困難を伴うロービジョンのタイプ1)であるが,その読書困難は,視力の低下を補償するような単純な拡大鏡の処方では解決できない,別の原因によるものと考えられている.
このタイプのロービジョンでは,著しく感度の低下した中心視野を避けて,周辺視野を用いることを余儀なくされる.そこで,周辺視野には読書を行うのに何らかの不利な特性があると考えられている.
本研究では,こみあい現象の影響に注目した.こみあい現象は,視力検査では視標間の間隔が小さくなると視標の読み分けがより困難になる現象2)として知られている.一般の印刷物では,視力検査の視標よりも文字は接近して配置されているので,こみあい現象が読書に影響を及ぼすことは十分に考えられる.さらに,こみあい現象は周辺視野で大きくなる3,4)ことが明らかにされており,中心視野欠損のあるロービジョンの読書困難に関連していると考えられている5).
これまでの読書研究から,晴眼かロービジョンかにかかわらず,一般に文字サイズ別の読書速度は図1のようになり,個々の読者の読書成績は主に最大読書速度と臨界文字サイズ(最大読書速度で読める最小の文字サイズ)という2つの変数により特徴づけることができる6,7).
晴眼者を対象に文字認知課題を用いた研究8)は,周辺視野における文字認知へのこみあい現象の影響が,中心視野の場合と同じであり,十分な文字サイズの拡大により影響がなくなることを報告している.こみあい現象が影響し始める文字サイズは,臨界文字サイズに等しく,臨界文字サイズ未満の文字サイズで認知する場合,こみあい現象による成績の低下が生じた.
これらの先行研究の結果を踏まえて,今回われわれは,文字の問のスペースの効果が,臨界文字サイズを境にしてどのように異なるのか,中心視野欠損のあるロービジョンの者を対象に検討した.
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