発行日 1953年10月15日
Published Date 1953/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661909425
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さて今迄述べてきた事柄は,大体いつの時代においても妥当とする読書の意味と方法であるが,現在の私達にとつては,逸することのできない一つの重要な問題がある。それは現代が世界史の根本的な変革期に当つていて,そこから読者についても多くの深刻な混乱が生じていることである。そのことは我国においても今回の敗戦によつて,一時に明確となつた事柄である。すなわち,世界戦爭の悲惨な破壞を通して,資本主義社会そのもののもつ矛盾と,その崩壞の必然性が顯わとなるにつれて,その上に形成されていた近代的人間像の破滅が誰の眼にも明かとなり,今迄の社会で権威をもつて通用していた教養は,自己の人間形成の目標を失つた。従つてそこには今迄の教養の内容と,それを培うための既成の読書のコースについての根本的反省が生れてきたのである。殊に明治以来の教養についての反省は,例えば,亀井勝一郞氏の「現代人の研究」(角川文庫)や唐木順三氏の「現代史の試み」のごとき優れた成果を生んでいる。そこでこれらの反省に導れながら今迄の日本人の読書について顧みるならば,こう言うことが出来よう。
日本人の読書は,日本に近代社会が形成され,封建社会のイデオロギーであつた儒教に代つて,新時代の指導理念であるヒューマニズムが,欧米諸国より移入されるにつれて著しい変化を経験した。
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