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はじめに
平衡障害は,安静時および運動時における姿勢制御障害と捉えることができる.
例えば,バレエ(図1)である姿勢を保持しようとするには,中枢神経系の“姿勢制御システム”が,前庭迷路系,視覚系,深部感覚系,表在知覚系などからの情報を絶えず統括制御し,四肢・体幹の拮抗筋・抗重力筋に対し適切な筋緊張に関する指令(command)信号を与える必要がある.
この姿勢制御システムが,いわば“破綻”した状態が,運動失調(ataxia)であり,平衡失調(disequilibrium)である.前者は,協調運動の障害された状態であり,主に運動など複雑な動的姿勢(dynamic posture)を維持しがたい状態を,一方,後者は静的姿勢(static posture)を維持しがたい状態に用いられることが多い1).後述するが,前者には脊髄後索型失調や小脳性失調が,後者には前庭迷路性失調が主に該当する2).
姿勢制御は,より高位にある中枢,中位にある中枢,下位にある中枢とそれらの間にある機能的な神経回路網の連携により遂行されると考えられている.図2は,姿勢制御における階層性レベル(hierarchy)を実際の中枢神経系の構築と対比させて示したものである.この図からも明らかなように,ある特定の部位で姿勢制御のprogrammingがなさるのではなく,適宜,身体のバランスに応じて神経回路のSubgroup群のなかから選択され“適切な”姿勢指令(command)信号を形成すると思われる.
特に,脳幹,小脳あるいは大脳基底核は,前庭迷路系,視覚系,深部感覚系,表在感覚系などから入力信号を,また,出力モニターとしてefference copyを受けて姿勢統御に重要な役割を担っていると思われる.
図3に,小脳,脳幹および脊髄の機能連関図を示した.脳幹からは脊髄に向かい3つの主要信号伝達路が下行している.すなわち,前庭脊髄路vestibulospinal tract(VS),網様体脊髄路reticulospinal tract(RS)および,赤核脊髄路rubrospinal tract(RbS)である.但し,霊長類では,系統発生的にオリーブ核が発達しており,下向路としてオリーブ脊髄路olivospinal tract(OT)も重要である.
これらの起始細胞群は,いずれも脳幹に存在し,小脳Purkinje細胞による抑制性制御を受けている.外側前庭脊髄路(LVST)は,主に同側上下肢伸筋群に,網様体脊髄路は同側上下肢屈筋群に,そして赤核脊髄路は対側上下肢屈筋群に促通的に働く(なお,内側前庭脊髄路MVSTは,主に対側頸筋,体幹筋に興奮性伝達を行っている).
一方,運動器官motor apparatusや脊髄からのfeedback信号は背側脊髄小脳路(DSCT)および腹側脊髄小脳路(VSCT;主にefference copyが伝達される)を通じて小脳に伝達され,姿勢制御の調整が行われると考えられる.
こうして,小脳脳幹および脊髄の間で閉ループ(closed loop)による姿勢統御機構が存在すると思われる3,4).
また,脊髄反射レベルでも伸張反射(stretch reflex)などは姿勢制御に重要な働きをしていると考えられる.例えば,被検者に運動板の上で静止起立位をとらせ,突然,板を前後に揺さぶると,被検者は反射的に転倒防止のため足を踏み込む反射がみられる.この反射を下腿伸筋の腓腹筋で筋電図(EMG)記録すると,短潜時のmyotatic stretch reflexと長潜時(潜時120ms;脊髄→大脳皮質→脊髄のループ)のtranscortical stretch reflexの2つのcomponentが認められる.但し,この2つのcomponentの生理的意義に関しては,未だに意見は分かれている.
transcortical stretch reflexが重要であるとする立場5,6),transcortical stretch reflexは,有効な代償性反応を起こすには潜時が遅すぎることから,むしろ,次の行動stageへの移行を容易にする働きをする7)とするものや,あるいは,myotatic stretch reflexもtranscortical stretch reflexも反射としては微弱である8)など,諸説がある,Nashnerは,この2つのcomponentの他に,より潜時の長い(潜時180ms)“前庭性”componentも報告している9,10).この反射が,いかに姿勢制御に関与しているかは,さらなる検討が必要と思われる.
今回は,平衡障害として責任病巣の違いにより,大きく脊髄後索型性,小脳性,前庭性,前頭葉性の4つを,また,小児中心に姿勢反射と運動獲得について取り上げ,概略を述べる.
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