Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
『ユートピア』と『太陽の都』―「理想郷」における障害者
高橋 正雄
1
1筑波大学心身障害学系
pp.702
発行日 1998年7月10日
Published Date 1998/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552108714
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世にユートピア文学と呼ばれる作品は少なくないが,これらの理想郷では,障害者はどのような対応をされているのだろうか?
1516年に発表されたトーマス・モアの『ユートピア』(沢田昭夫訳,中央公論社)には,今日ならば精神遅滞と見なされるであろう人々に対するこの国の態度について,「彼らは道化が大好きです.道化の気持ちを傷つけるのは常に曲がったこととされていますが,そのおろかさを楽しむことは禁じられていません.というのは,そういうふうにひとに楽しんでもらうことは,道化自身にとって最もありがたいことだと考えるからです」と描かれている.そして,こうした道化の言動に笑い興じることのない陰気で生真面目な人間には,「阿呆の世話」を任せないとも言う.なぜなら,そういう人には,「道化はなんの利益も,楽しみさえも〔楽しませることだけが道化のできることです〕与えないわけですから,道化も十分面倒を見てもらえないだろうと怖れるから」である.また,身体障害者については,「奇形とか不具を見て嘲笑することはいやしい,不名誉なこととされています」と,本人にとって不可抗力の結果生じた障害を責めたり嘲笑することは恥ずべきことだという倫理感が示されている.
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