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はじめに
障害者の心理状態はリハビリテーションの効果を左右する重要な要因の一つである.その代表的な問題として,障害の「受容」や「訓練意欲」がある.障害の「受容」は,その概念の導入の歴史1)から「適応」と混同されたり,病者の心理過程の最終段階と捉えられたりしており,その解釈は一義的とは言えない.
近年,本田が障害「受容」を「回復の断念に伴う価値体系の変化」2)と定義したのに伴い,筆者らは,その実証研究の必要性を感じ,障害受容度診断検査3)を用いて,入院患者の障害受容度の把握を試行した.しかし,検査協力を受諾した被検者のうち,検査途中での拒否が多く生じたため(5名中2名),この検査を中止した.
そこで,筆者らは,「受容」で最も重要で中核的な要因と考えている自尊心(Self-Esteem)に着目した.Coopersmith Sによると,自尊心とは,個人が自分(の存在)に対して持つ価値の程度についての(主観的)評定である4).また,Rosenberg Mは,自尊心には2つの意味があるとしており,それらを区別する必要があると指摘している5).その2つとは,「とても良い(very good)」と考える場合と,「これでよい(good enough)」と考える場合である.前者は,完全性,優越性の感情と関連し,他者より優れ,また優れていると他者から見なされていると思うことである.これに対し,後者は,たとえ平均的な人間であったとしても,自分が設定した価値基準に照らして自分を受容すること(self-acceptance)であり,自分に好意を抱き,自分を尊重することであるとしている.「これでよい」という意味での自尊心には,優越性や完全性は含まれない.
Rosenberg Mは後者の考えを採用しており,筆者らも,後者の考えに同意している.つまり,自尊心とは,人が自分自身を尊敬し,価値ある人間であると考える程度である.この時,必ずしも自分を他の人々よりもよりよいと考えているわけでもなく,また悪いと考えているわけでもない.自分が究極的に完全であると感じているのではなく,むしろ成長や改善の期待と限界を知っていることを意味している.また,自尊心が低いということは,自己拒否,自己不満足,自己軽蔑を示しており,自分が観察している自己に対して尊敬を欠いていることを意味する.
このような自尊心を調査することによるリハビリテーション医療への貢献として,障害の「受容」や「訓練意欲」を促す効果的な指導方法が考えられる.そこで,本研究では,実際にリハビリテーション過程にある病者の自尊心を調査し,身体と自尊心の関係について調査するとともに,学校教育の場で研究されている健常児を対象とした自己概念,自己価値感や「やる気」などを参考にして,リハビリテーション過程にある患者への効果的な指導方法について考察する.
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