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はじめに
1-Gの地球上においては,重力に抗した姿勢維持または筋活動が余儀なくされている.ところが宇宙の無重力環境下では抗重力筋活動が不可能であり,生体には種々の変化がもたらされる1).骨格筋(特に抗重力筋)には,萎縮が起こることが知られている2-7).似たような萎縮は,bed rest8)や関節固定9-11),tenotomy11,12),denervationまたはdeafferentation12),ラットにおける後肢懸垂5,13,14)でも起こる.宇宙での筋萎縮は,その環境に対する適応として起こるのであるが,特に長期の飛行中の筋運動不足は,骨密度の低下や心機能の低下なども招き1),地球への帰還後はいろいろと支障となるので,このような変化は極力防止しなければならない.
21世紀の初めには宇宙基地の運用も始まり,有人の火星探査も計画されており,ヒトが宇宙空間に暴露される時間はますます長期化する.たとえば,単一飛行で438日という世界最長記録を持つロシアの宇宙飛行士ワレリー・ポリアコフ氏は,“私の飛行期間は大体火星への片道飛行に相当する.たとえ火星に着いても,歩行すらできなかったら,行った意味がないので,私は毎日2時間ハードなトレーニングをした.その結果,地球(火星ではなかったが)帰還後の生活でも,何も問題は生じなかった……”(1995年11月12日,鹿屋体育大学での講演にて)と言っている.しかしながら,筋萎縮の詳細なメカニズムが不明であるため,萎縮を防止するための効率のよい処方(counter measure)も解明されていない.限られた紙面の関係で引用文献を制限せざるをえないが,本稿では骨格筋萎縮のメカニズムやcountermeasureについて考察を加えてみたい.
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