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はじめに
重度の失語症患者は言語以外の問題も持っていることが多い.例えば日常生活では,受身で何をするにも声かけを要し,動作的には可能なADLを自ら行うことや,訓練・入浴・食事などのルーティン化された活動のスケジュールを自分で組み立てて動くことができない.これは,言い換えれば,「日常生活の流れを理解すること」が困難と言えよう.
現在のリハビリテーションの訓練方法では,こういった日常生活の流れを理解させる指導を行うことは難しいと思われる.なぜならば,言語治療(以下,ST)訓練に限らず,多くの訓練は,まず,「訓練室」で能力の改善を図った後,日常生活に般化させる方法で行われているからである.日常生活の流れは,何ができる,できないという個々の能力ではなく,むしろ一つ一つの活動の隙間ともいうべき,活動の合間の時間を如何にコントロールするかに関わっている.
日常生活全般のスケジュールを組み立てる能力そのものにアプローチすることは,言語治療士との訓練中だけでは到底行うことはできず,さまざまな場面,さまざまな時間を指導対象としていかなければならない.
そこで今回は,まず,ST訓練の一環として行える範囲で重度失語症者に日常生活の流れを理解させる指導として,宿題を自己管理できることを目的とした指導を選択した.宿題の自己管理は,宿題を行うだけではなく,むしろ,出された宿題を次回の訓練時間にきちんと持参できることが重要な意味を持つ.つまり,宿題を忘れずに持参するためには,1回のST訓練といった,その場限りではなく,少なくとも次の訓練までにどうするかを考えて行動することが必要となる.これが,STの時間と時間をつなぐ指導となるのではないかと筆者は考えた.また,同様な理由から宿題の自己管理が可能になれば服薬の自己管理も可能となるのではないかと考えた.
本研究では,日常生活の流れが理解できない重度失語症患者に対し,宿題の自己管理指導を行うことで,服薬の自己管理が可能となるかどうかを検討した.この際,応用行動分析に基づく課題分析(Task Analysis)1)の手法を用いた.この指導経過から,1)重度失語症者に対する日常生活に着目した指導と,2)課題分析の意義,3)宿題の自己管理と服薬の自己管理の関連性について考察を加えた.
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