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はじめに
重度身体障害者が地域で自立した生活を送るには,「住居」,「介助」,「経済」の安定が最低必要条件となることは周知の通りである.
第二次世界大戦以降における,わが国の重度身体障害者の生活に対する基本的概念は,この「住居」,「介助」,「経済」の安定を効率よく提供するために,「施設収容」が望ましいとされてきた.このような背景から,施設福祉の形態はさまざまな施設を集合させた大規模な施設,すなわち「コロニー時代」へと推移するが,隔離的色彩の濃いことに対する批判と反省が強まり,地域分散型の「小規模施設」へと発展してきた.
そして現在,わが国においても障害者の自立生活運動が各地で盛んに行われるようになり,地域で一般市民と同じように生活する「自立生活」が具体化してきている.
筆者は1990年,障害者の自立生活運動が盛んなアメリカ・カリフォルニア州バークレイ市を訪れ,介助者を雇って1人でアパート暮らしをしている人工呼吸器を必要とする第2頸髄損傷の高位頸髄損傷者(首から上しか動かない)に会った(図1,2).「何故,家族と一緒に暮らさないのか」と質問したところ,彼が言うには「自分には自分の人生があるように,親にも親の人生がある.成人した私の生活を維持するために親の人生を奪うことはできない.私たち障害を持った人間が地域で障害を持たない同年齢の人と同じような生活をすることは,施設生活をするよりも経済的であり,国家にとっても国民の意識にとっても有意義なことである.しかし,何故そのような質問をするのか.」と不思議がられた.このように,欧米における家族の生活形態は,幼い頃から自分の部屋で育ち,成人したら親から独立して新しい生活を築くのが当然という考え方があり,例え年老いても,身体が不自由になっても,独立した生活を送るという意識が根付いていると言えよう.
わが国では長年,直系家族制を維持し,年老いても身体が不自由になっても,親・配偶者・子・孫の世話で在宅生活が維持できるという,三世代・四世代同居の積極的機能が評価されてきた.ところが,近年では世代間の相互依存を重視するより,可能な限りそれぞれの生活とプライバシーを大事にすることから,世代間の別居が多くなっている実態はさまざまな調査からも明らかである.わが国の核家族化傾向は,まさに欧米の国民意識に近づいて,今後ますます単身生活者が増加することが予測される.
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