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はじめに
作業療法の分野で近年最も話題となっているトピックが「作業療法理論の再考」であるかどうかは定かではないが,その兆しは確かにあるようである.わが国の作業療法の変遷を語るとき,作業療法を取り巻くさまざまな社会的環境(高齢者の急増に伴う人口構造の変化と医療経済上の問題,国民の健康意識の変化,医療技術の進歩に伴う疾病・障害構造の変化.そして医学的リハビリテーションの進歩など)はもちろんのこと,アメリカの作業療法界の動向(特に,著書や研究文献)からの影響は無視できない.後者は,主としてアメリカの作業療法教員の日本への派遣あるいは日本人のアメリカ留学によって指導者養成を行うことから作業療法士の養成が開始されたことが大きな要因と考えられる.
わが国に作業療法士養成が開始された1963年から30年以上を越えた現在,作業療法士の間には自分たちは専門職として社会の期待にどう応えていけるのか,という疑問をなげかけてきた歴史があるといってよいであろう.専門職としての同一性の確認は,作業療法士に限ったことではないであろうが,やはり作業療法の実践に重くのしかかっていた現実でもあった.それは,一つには「作業(Occupation)」に対する中核的概念の未発達と理解の困難さによるものであり,かつ作業療法の拡散的実践によるものでもあると思われる.英語のOccupationと日本語の作業は必ずしもすべて一致した概念であるとは思わないが,どの国においてもこの用語からくる統一的概念の集約に悩まされてきた歴史をもっている.
本稿ではこのような状況下で作業療法の理論的基盤はどのような変遷を遂げたか,かつ現在の動向を関連図書・文献や作業療法士協会活動および近年の学会活動,等を通して論じる.
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