巻頭言
気になった言葉から
水島 繁美
1
1帝京大学医学部リハビリテーション科
pp.95
発行日 1994年2月10日
Published Date 1994/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552107542
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外来には,長いこと,片麻痺のAさんという方が来られている.みるからに昔気質で,頑固そうな方である.奥さんがいつもご一緒である.診察室では,「この手がね~と」とか,「歩くと足指が痛くなる」とかを訴えられる時もあるが,これはむしろ稀である.ある時,話の具合で発症当時の体験についてお話しを願ったことがあった.「そりゃー,あなた,大変なもんでしたよ.初めの頃のことはよく知りませんけどね,看護婦を怒鳴るやら,寝なかったり,なにか騒がしたり,困らせたりしたもんらしいですよ.少しおはずかしいですがね.それに,家に帰ってからがまた大変でしたよ」.そして家で起こった出来事のあれこれを話されてから,淡々と,「でも,まあ~,こんなものなんでしょうね」と言い残して帰られた.その後,この最後の言葉だけが妙に耳に残った.この言葉からあれこれまとまりのないことを考えてしまった.
人,病になれば,誰しも早く回復して元の生活に戻りたいと願わないものはいない.例え,それが決して治らない,と言われた時でさえも…….人は,危機に瀕した時,今までの生活を失いたくないという願いは一層強くなるものであろう.しかしこの心情は,障害の受容という観点から見ると少しばかり矛盾するものではないか.というのは,障害の受容には,それまでの生活のなにがしかを失ったり,諸々の変更(時には根本的な)が求められることになるからである.
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