随筆
言葉
阿部 艶子
pp.20-22
発行日 1953年9月10日
Published Date 1953/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200589
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西洋では「あなたは何処へ行きますか」といふ質問と「あなたの年はいくつですか」といふ質問は,大変ぶしつけなことで,よほど親しい人に対してでなければ云はないことになつてゐるさうだ.
日本では「おいくつ?」と年を訊くことも平気だし「どちらへ?」といふのはむしろ儀禮的な挨拶にさへなってゐる位だ.親しい間柄の人に出逢つた時に「何処へ行くの?」「今どこそこまで行くところ」「ちようどよかつた.じやあ私も途中まで一緒に行くわ」といふやうなことになるのは,ちっともいやなことではないけれど,めつたに逢はない人に久々で道で逢つた途端「どちらへ?」とやられると間誤ついてしまふ.一年に一度も逢はないやうな人に,個人的なその時の都合を云ふ必要もないし又先方でもそれをききただして見たところで前後の事情も判るまい.「どちらへ?」といふ質問はまつたく立ちいり過ぎた,そして何の利益もない言葉だ.
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