頸動脈側副血行の解析

ANALYSIS OF COLLATERAL CIRCULATION OF CAROTID ARTERY

　I．はじめに

　側副血行collateral blood flowとはある血管の通過障害が起こつたときにこれに代つて流れる血流である。たとえば，血行を交通網と類比すれば，国鉄が何かの都合で不通となつたとき，地下鉄の利用者が増加するが，これが側副血行に相当する。側副血行が流れる血管を側副路collateral channelとよぶ。

　多くの血管には側副路が自然に備わつている。側副路のない動脈を終動脈end arteryとよぶ。脳，腎，脾，心筋などの動脈は終動脈であるといわれている。しかし，これは程度問題であろうし，また，動脈のどの点から末梢を見てそうであるかが問題である。

　側副血行はまた時間の問題でもある。徐々に起こつた血流の途絶は突如として起こつたものよりも末梢組織の障害が少ない。また，血行途絶が起こつたのち，側副血行は一般に徐々に発達するものである。終動脈であるといわれている冠動脈の3本の本幹同志の間ですら，徐々に起こつた狭窄に対しては相互の側副路が発達するといわれる^1）。

　側副血行を論ずる際に，頸動脈流域は特に興味深い揚所である。その理由はいうまでもなく，第一にこの部分で側副路が特によく発達しているからであり，第二に，この部分は脳という重要器管に血流を送つているからである。目的論的に見れば，第一のことは第二のことの結果と考えられる。

　本稿では主として麻酔下のイヌにおいて総頸動脈を閉鎖した際の側副血流についてのべる。もとよりイヌの血管系や脳血流の様式はヒトのそれとは大いに異なつているが，一般論的な手がかりとして，イヌの頸動脈で観察されることは，ヒトの血流について考えるときに役に立つと思われる。

　Because carotid arteries have the important function of transporting the blood-supply to the brain, they are equiped with well developed collateral circulation.

　When the common carotid is completely occluded on one side in a dog under pentobarbital anesthesia, the blood flow in its counterpart on the other side will be increased by 30% while, the corresponding blood pressure will be increased only 10%. The intra-arterial blood pressure on the occluded side decreased to 70 mmHg from the original 120mm which gradually settled to the average of 85mmHg. This increase in the blood flow in the unoccluded side will show no change even when the carotid sinus of the same side is denuded of its nerve supply.

　When the common carotid on one side was completely occluded, the blood flow through the vertebral artery on the same side showed an increase of more than twice the usual amount.