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我が国は長寿化と出生率の低下により65歳以上の人口が10年後には16.3%,21世紀には24%と急速に老齢化社会を迎えることになる.“21世紀の老人ケア”が第28回日本リハビリテーション医学会学術集会の重要なテーマの一つとして取り上げられた.シンポジウムは一般に公開され,政策と展望について医師,行政,自治体,マスメディアの立場から話し合われた.平均余命が80歳になったことは,日本が平和で豊かであることの証明である.しかし,長寿に反対するかのようなポックリ願望が国民に根強くあることも事実である.ポックリ願望は我が国古来の死生観ではなく,現代の延命治療に対するアンチテーゼではないだろうか.老齢化社会のもう一つの要因である出生率の低下は人生(生きがい)に関する国民の意識として分析することが不可欠と考える.
ファースト・スピーカーである日野原重明先生は,老人のケアは人生に有終の美を与える医療でなければならないと述べられ,何が医療の面からケアのレベルアップに貢献できるかを問われた.Independent living,Normalization,Quality of lifeと理念の変遷はあるが,リハビリテーションとはラスク先生(日野原先生によればラスク先生の恩師)が“Not only to add years to life,but also to add life to years”と言われた.砂原茂一先生は著書“リハビリテーション”に「前者のlifeは生命であるが,後者の場合は何であるのかという問題がある.社会参加や家庭内自立がlifeの中身なのか,わずかに家族との間にコミュニケーションが成立している状況もlife―生きがいなのか」と指摘されている.老人のケアを論じるときにはこのラスク先生の言葉を忘れてはならない.何が生きがいなのか自問自答しつつリハビリテーションを実行していくことで,ケアのレベル・アップにいささかなりとも寄与できるのではないだろうか.
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