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はじめに
昭和56年の国際障害者年を契機として,わが国の障害者に対する諸施策や,国民の意識に一定の改善が図られたことは,障害者自身を含めて多くの人々が認めており,事実そのとおりである.
なかでも昭和61年度から実施された年金大改革に際して,それまで公的年金の対象外におかれ,福祉年金しか受給できなかった幼いときからの障害者を包括した基礎年金制度を創設したことは,障害者の経済的自立という点からは画期的な改善として評価されている.そして,福祉年金受給者に課せられていた扶養親族の所得制限を撤廃するなど,障害者の自立の理念に配慮した制度改善もあわせて行われたのである.
私ごとで恐縮であるが,国際障害者年の前年の昭和55年の本誌に,私は障害者の所得保障の在り方に関する小論を書かせていただいている.当時(昭和55年)の障害福祉年金月額は,1級33,800円,2級22,500円であり,職業につけない障害者にとっては,社会的自立などは夢のまた夢のような状況におかれていた.経済的自立の条件なしに,生活者としての人間的自立がありえないのは当然である.私はこの小論で所得保障を生活保護でなく年金制度で行うべきこと,金額は生活保護の基本生活費(1類+2類)+障害加算の額とし,対象者は自らの力で生計を維持することの困難な20歳以上の障害者とし,稼働能力の喪失の度合いを反映したものにすること,さらに扶養義務者の所得制限等を撤廃するべきであることなどを骨子とした具体的な提案を行っている.
国際障害者年の前年に,わが国の障害者関係100余の民間団体によって国際障害者年日本推進協議会が結成されて行動を始めたが,私はこの小論がきっかけとなって,「完全参加と平等」を実現するための長期行動計画策定作業の中で,所得保障の政策づくりを担当することになり,議論を重ねて所得保障に関する行動計画のまとめを手がけた.
その行動計画の骨子は,①第1段階として当面,障害福祉年金の額を国民年金(拠出制)の額まで引き上げること,②第2段階として,中期計画において障害者年金の基本額を生活保護基本生活費+障害加算額とし,介護を要する者の介護費用を,年金基本額の2分の1を目安として支給すること,③第3段階として,10年の行動計画の最終年度を目標として,国民の標準的な生活水準に近づけた年金額を実現すること,などが主な内容である.そして年金額の水準に対応して,障害のゆえに余分にかかる経費に配慮しつつ,各種割引制度や税の減免などを見直し,施設利用の際の費用についても一定の負担をすることなどを提起している.
そして国際障害者年の年から数えて平成2年は10年目を迎えたことになる.“国連障害者の10年”は平成4年までと,あと2年余を残しているが,もう目前に迫っているといってもよい.しかるに障害者問題の全体をみても,障害者の範囲を狭く限定している心身障害者対策基本法には手さえつけられていない.福祉法は依然として縦割のままであり,精神障害者等の対策もほとんど進んでいない.
所得保障に関して言えば,昭和61年度の改革が画期的であっただけに,もうこれ以上は無理だという空気が支配的でさえある.そうした中で,稼得能力がないか,あるいは職業的にも重い障害者,さらには介助なしには生活できない人々は,依然として自立生活を維持できない状況におかれているのである.国際障害者年日本推進協議会の主張からいえば,第1段階の要望が入れられたにすぎないのである.私はそうした意味で,国際障害者年の提起した課題の真の実現はこれからであるとの思いを強く持っている.そうした立場から,今後の議論のたたき台になることを願って,所得保障の在り方についての私見を述べてみたいと思う.
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