書評
Nikolai Bogduk, Lance T. Twomey 著 四宮謙一 訳―腰椎の臨床解剖
小野 啓郎
1
1大阪大学医学部整形外科
pp.429
発行日 1990年6月10日
Published Date 1990/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552106283
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四宮さんの翻訳による「腰椎の臨床解剖」(Clinical Anatomy of the Lumbar Spine)は,確かに臨床家にとって魅力的な解剖書である.訳も正確で,しかも読みやすい,特徴を一言で言うとすれば,diagnosis-oriented anatomyと言えようか.腰痛の診断を念頭においた解剖といってもよい.
元来,解剖書というのは外科医の血汐に染まった手引書であった(ガレヌス・ベザリウスの例をあげるまでもなく).「解体新書」もまた実地医家の焔の如き熱意の賜物であることは,人口に膾炙した事実である.その解剖書が面白くなくなった理由はどこにあるのだろう.多分,解剖学として整理され,骨・筋・神経・血管がそれぞれ無関係に,しかし一応系統だって詰めこまれるようになったのがきっかけであろう.解剖学教科書が解剖書を面白いはずがない代物にしてしまったのである.瑣末主義の典型とでも言うべきドイツ学派解剖学は,内容こそ完壁であったものの,presentationのあり方は臨床家を遠ざけずにはいなかった.その対極にあるのがArnold K. HenryのExtensile Exposureである.一見稚拙な挿絵ではあるが,外科医にとっては手離すことのできない解剖書として再版を重ねている.
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